フォトンベルトを抜けた先

自作小説をぼちぼちと。

ホワイトデー

彼女が死んだ。

最近はよくデートもしていたし、こないだだってバレンタインのチョコを貰ったばかりだった。僕は手に持ったお返しのキャンディが入った袋に目を落とす。僕は彼女の最後の顔を見られなかった。初めて見た時から僕の心を掴んだままのその瞳を、宝石の如く煌めく瞳を、僕は最後まで見ていられなかった。

彼女の最後の言葉には嫌悪や愛惜の感情は無く、ただそこにあるのは落胆だけだった。僕は彼女の大きすぎる期待に答えられなかったのだ。キャパシティを越えた感情はこの空間の空気を押し潰そうとした。さっきと同じとは思えない重力に、僕は何もできなかった。僕は彼女を救えなかった。

彼女にとって僕がどれほど期待外れであったか。彼女の笑顔をもう見られないと判って、ようやくそれに気づいた。僕にはもう彼女の心を変えることはできない。

彼女は死んだのだから。